【Watanabe Textile 渡邊竜康さまインタビュー】
自然に染まり、未来を織る。
Watanabe Textileが紡ぐ、富士吉田の新しい織物文化

【Watanabe Textile 渡邊竜康さまインタビュー】
自然に染まり、未来を織る。
Watanabe Textileが紡ぐ、富士吉田の新しい織物文化



富士山麓の清らかな伏流水に育まれた織物の町、山梨・富士吉田。江戸時代から続く裏地文化の伝統を受け継ぎながらも、3代目の渡邊竜康さんは建築やアートから得た知見や感性を織物に応用し、独自のブランド「Watanabe Textile」を立ち上げました。40年以上前の織機で丁寧に織り上げる生地は、100%植物由来のキュプラを使用し、自然への敬意と環境や体への配慮が込められています。

その姿勢に共感したBELLUSTAR TOKYO, A Pan Pacific Hotel(以下、BELLUSTAR TOKYO)は、誠実かつ新しいものづくりのかたちを追求するWatanabe Textileに、「桜アップサイクルプロジェクト」への協力を依頼。2024年春に館内装飾に使用した桜を用いた『ホテルを彩った桜で糸を染めた扇子』に続き、2025年春に館内を彩った桜をアップサイクルした『ホテルを彩った桜で染めたマフラー』を発売いたします。

富士吉田の織物文化と現代的な感性が美しく融合したものづくりの真髄について、渡邊さんにお話を伺いました。

富士山の恵みが育んだ織物の町、富士吉田

富士山の麓に広がる富士吉田。この地が織物の町として発展した背景には、富士山そのものの存在が深く関わっています。「富士山の伏流水は不純物が少なく、染色に適している」と渡邊さんが語ってくれたように、清らかな水は色を鮮やかに染め上げ、この土地を織物産地として育て上げてきました。

歴史を遡れば、江戸時代まで辿り着きます。当時、庶民は表地でおしゃれを楽しむことが許されませんでした。そこで、着物の裏地に美を求める文化が花開き、この地域で織られていた「甲斐絹」と呼ばれる高級絹織物が重宝されました。江戸に近い立地、薄い裏地ゆえの物流の利便性。様々な要因が重なり、富士吉田は織物の町として発展していきました。

そんな歴史ある土地で、渡邊さんの祖父が織物工房を始めたのが1948年。当初は着物の帯製造からスタートしました。2代目が工場を発展させ、OEMによる服地や傘生地などさまざまな織物を織りこなし、約40年前からはキュプラの先染め裏地製造に特化。スーツ文化の浸透とともに、裏地需要に応えてきました。

建築やアートから得たものを、新しい織物づくりに

時代は進み、リーマンショックを経験し、さらにスーツ需要の減少を肌で感じた渡邊さんは、自身が行ってきた様々な創作活動の経験を生かした自社オリジナル生地や製品の開発に取り組み始めます。

渡邊「父には内緒で、手探りで自分なりのスタイルを模索するための試作を始めました。小さな作業を積み重ね技術を身につけていく中で、次第に自分なりのやり方でテクスチャーのある生地が作れるようになっていきました。もともと自分の内側から何かを生み出すことが好きだったこともあって、仕事というよりは自分の創作の一環として生地づくりに取り組めるようになり、建築やアートに次ぐ新たなフロンティアを見つけたような感覚で、一気に可能性は広がっていきました。夜中まで夢中で開発することもしばしばありました。

建築から学んだ考え方や概念が、織物にも応用できるという気づきは、やはり手を動かすうちに得られたものですね。建築も織物もファッションも、素材の組み合わせでできているし、最終的には人間が使うものなので、根本的には目指すところは同じなのです。人に届けるもの、人が使うものを作るという点では、全く同じ文脈だと思います。

そういった建築やアート的な考えも起点にした素材の組み立て方や組み合わせ方が、従来の織物産業に足りていなかった部分であり、それに取り組むことで時代に合ったものが作れるのではないか、と思ったのです」


建築やアートにまつわる書籍


渡邊竜康さん

最初の製品として発表したブランケットとクッションカバーは、スウェーデンの展示会に出品され、「感触がすごく良い」と現地で高い評価を受けたといいます。

自然と調和するものづくりの哲学

Watanabe Textileのアトリエは、一歩外に出れば森や富士山が見渡せる自然に囲まれた環境にあります。そうした美しい自然のなかで育まれた感性をものづくりに溶け込ませることで「何もないけれどすべてがあるような」いろいろなものを受け入れ、多くの解釈が開かれているようなものづくりが一つの理想だと、渡邊さんは語ります。

渡邊「例えば、植物の葉の形をそのままデザインに起こすといったような直接的な表現ではなくて、自然の中に身を置いた時に感じた心地よさだったり、美しい色を見たときに心の中に生まれる何かだったり。そういった自分の中に無意識のうちにため込まれていった感覚が、いざ自分がものづくりに向き合うときに作為のないかたちで表れて、それが結果として自然物と同じような気配を纏(まと)っていたら良いなと思います」


Watanabe Textile 商品


Watanabe Textile 商品

自然への憧憬(しょうけい)を常に抱えてものづくりに向き合うWatanabe Textileに欠かせない素材が、キュプラです。「人絹(じんけん)」とも呼ばれるこの糸は、本来廃棄されてしまうコットンの種の周りにある産毛から作られる100%植物由来の天然素材で静電気を起こしにくく、肌触りも優しく滑りが良いという特徴があります。渡邊さん自身がアトピーを患っているということも、キュプラを選んだ理由の1つだそうです。

渡邊「自分が使いたいものをまず作ります。その中でキュプラという素材はずっと愛用していて、使うほどその良さを実感していて。滑りが良くて、肌にも優しい素材で、しかも植物からできていて土にも還るのです」

キュプラの原料